まなめはうす

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「バルス」を読んで日本の物流を心配する

「再生巨流」はスゴ本の流れで読んだ「バルス」が良かった。というか、今のご時世から考えさせられたことがあったので書き残しておく。(多少ネタバレ含む)

バルス

バルス

  • 作者:楡 周平
  • 発売日: 2018/04/26
  • メディア: 単行本

ネット通販会社の物流センターでバイトを始めた大学生の百瀬陽一は、派遣労働者の過酷な職場環境と運送業務に忙殺される総合物流企業の苛烈な現場を目の当たりにする。広がる格差への不満を背景に非正規労働者の待遇改善を訴えて「バルス」と名乗る人物が「テロ」を仕掛けた!国内の物流が滞り、さまざまな産業が打撃を受け始める―。「ネット通販」「宅配便」「非正規労働者」過剰依存に警鐘を鳴らす!時代を先取るビジネス小説の雄による集大成。

タイトルは天空の城ラピュタから。Amazonや物流、派遣をテーマに扱う本は少なくはないが、組み合わせて成功物語を描くというものではなく、問題を掲げて「テロ」という行為で一石を投じるという方向に持っていった作品。ネット通販はもはやなくてはならない存在になっているし、それを大手ネット通販会社が大きく利益を出すために必要なインフラとなっている物流。つい最近も楽天市場が送料無料をかかげて炎上したが、物流というインフラなしに成立しないにもかかわらず、そのコストがまるで無料であるかのように扱われている。私も昔は、運送業者は仕事はきついが稼げるというイメージがあったが、今やIT業界同様の多重下請け構造なんだと思うと、その厳しさを察してしまう。

いかに低価格でサービスを提供するか。これを考えると物流コストをいかに抑えるかは避けられない問題となる。一方で、物流コストさえ抑え込めれば、国内の距離感がなくってゆく。国内の距離感を無くすということは人口の集中した都心で消費するものを郊外で生産することが可能となり、地方が元気になっていくという相乗効果まで起こるというのはなるほどと思わされた。

バルス」の作中ではテロが起こり物流が停止する。この影響からさまざまな問題が起こり、例えば倉庫業者は配送できないことから仕事がなくなって派遣労働者がただただ切られていく。利益を追求する企業は無駄をどんどん削っていき、その行きつく先は、中核である業務ですら時世に合わせて低単価かつ流動性の高い派遣ばかりで構成されることになる。しかし、それでは派遣は夢を見れない。「人間には希望が必要だ。労働は人が幸せになるためにある。」という作中のことばがまさに当てはまる。この問題については「バルス」を読んでもらうとして、最も気になったのは地方の部分。

物流が止まる。都心に住む人は単にモノが届かないだけかもしれない。それはそれで大変だろうが、地方はたまったもんじゃない。今も新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)で紙不足が大きな社会問題になっているが、トイレットペーパーは倉庫に山積みにもかかわらず、最適化された物流でないと利益がでないほどに価格を下げていることからイレギュラーな配送はできずに供給が追い付かなくなっている。例えばタマゴの場合、物流が止まったら畜産農家消費地である都心に送ることができずに売上がなくなるが、生産調整すらできない。物流が止まったからと言って出てくるタマゴは止められない。要は、物流が止まったら最初に危機に陥るのは地方だと私は強く思った。

今、いつロックダウン(都市封鎖)が起きてもおかしくない情勢となっている。都内に住む私としては、仕事がどうなるのか、買いたいものが買いたい時に買えるのか、保障はどの程度されるのかが気になっているが、私はこの本を読んで地方経済の方が気になり、物流はどうなるのだろうかと気にかけている。

昨夜の都知事会見で緊急事態宣言時の都の対応の説明があったそうだが、物流については触れられていない。
それゆえに、心配に思った。


良い読書で、良い人生を。
ここのところ週末は外出できないので読書が捗りますが、こんなご時世では心配事も増えてきますね。どうにか乗り切れますように。